Masaki Koike's blog

編集などを生業としています。モヤモヤの吐き出し、触れたものやつくったものの所感の備忘録など。

柴田聡子 in FIREと『編集の提案』

昨日は初めて、柴田聡子(正確にはバンド隊も含めて「柴田聡子 in FIRE」)のライブに足を運んだ。

 

最近リリースしたニューアルバム「ぼちぼち銀河」のレコ発ライブ。別に僕は柴田聡子の熱心なリスナーというわけではまったくなくて、前作の「がんばれ!メロディー」はとても傑作でよく聴いていて、その流れで他のアルバムも聴いてみたが、逆に言うとそれくらい。なんとなく、たまたまライブ情報を見つけて「一回見ておくか」くらいの気持ちで申し込んだ。

 

たまたま整理番号が前の方だったこともあり、かなり前のほうで見られた。たぶん4列目くらい?

 

結論から言うと、とてもよかった。柴田聡子の圧倒的な歌唱の魅力、ゆるゆるとしていながらもたしかに発揮しているカリスマ性はもちろんのこと、バンド全体としてとても多幸感とグルーヴ感に溢れていた。柴田聡子は特に最近の曲は後ろノリの曲が多い印象だったけど、それがライブだととても心地よい演奏に昇華されている。ベースとドラムの真ん前の位置で、美味しい体験ができたなぁ。

 

特にニューアルバムは、音源だと生演奏感は前作に比べて抑えられているのだけれど、それゆえにライブでの生感が心地よい。もちろん過去作の曲も最高で、前作の目玉曲でよく聴いていた「結婚しました」のときは、多幸感のあまり、終始泣きそうになりながらフロア一体となって身体を揺らしていた。

柴田聡子 - 結婚しました (Official Music Video) - YouTube

 

 

でも、それだけじゃない。なんだか、「自分も仲間に加わりたい」と思わされる、あたたかい雰囲気が演奏から滲み出ているのだ。いいバンドにも色々なタイプがある気がしていて、圧倒的なカリスマ性でいい意味で観客を置いてけぼりにするバンドも好きだが、柴田聡子 in FIREはたしかな演奏力であるにもかかわらず、優しくてカッコいい先輩たちが楽しく演奏して「いつでも混ざっていいよ」と呼びかけてくれているような、そんなあたたかさがあった。

 

なんとなく、聴きながら、少し前に読んでよかった、津野海太郎『編集の提案』という本を思い出した。この本は晶文社の名物編集者である津野さんが、まだウェブメディアなんてものが出てくる前から各所で書いていた、編集論・編集実務論をまとめた良書だが、とくに印象に残ったのは、雑誌づくりや編集は「演技」だという話。いけているひとたちが、楽しそうにいけている記事をつくっている様子を、ミクロな文章からマクロな企画方針にまで通底させて「演技」することこそ、メディアがしていることだ、といった旨の内容がたしか書かれていた。それで「自分も加わってみたい」という気持ちを、読者に抱かせるのだと。

 

昨日の柴田聡子 in FIREには、まさにそうした「加わりたい」感が宿っていた。こうした「演技」は、ともするとコンプレックス商法に堕する危険性があるが、彼女たちは一切のそうして感覚を抱かせることなく、幸福な空間をつくり出していた。自分もメディアを通してこんな感覚を生み出したいな、そう思って元気が出た、いいライブだった。また行きたい。