ここ数年、いわゆる人文・カルチャーといった領域のマイクロ経営論のような議論が活発化している印象がある。
たとえば直近で言えば、以下のような新刊がそれに相当する。
- 稲垣 えみ子・大原 扁理『シン・ファイヤー』
- とにかく貯蓄と投資にばかり目がいく既存のFIRE論に対して、お金の使い方とDIY的生き方の指南を説く、まさしく新しいFIRE論。その結論として、「親切をする」という互助論に行き着く。
- かくれんぼパブリッシング『生=創×稼×暮』
- 現代の百姓たちのポートフォリオ集、とでもいえる。
- 坂口恭平・道草晴子『生きのびるための事務』
- 理想と現実をとにかく量的に具体化し、その差分を埋めるために淡々と試行錯誤する技術としての事務。ある種の自己啓発的な方法論と同じなのだけれど、それを客観的な成功のためではなく、主観的な幸福のための技術として描いている。
- ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』
そんな話を友人にぶつけたところ、その一つの源流は東浩紀『ゲンロン戦記』、もっといえば千葉雅也『勉強の哲学』に遡れるのでは?という話になった。ビジネスとかけ離れていた領域である人文・カルチャーで興隆する、自己啓発・ビジネス的な潮流。単に景気が悪くなっているというのもあるのだろうが、こうした現象になにか名前をつけつつ、その事例を網羅し背景を分析などしてみても面白いかもしれない。
他方、ふだん自分がデサイロで取り組んでいるような、ビジネス側からの人文知への注目は、それと逆ベクトルで似たようなことが起きていると言えるのかもしれない。両者はまったく交わっていないけれど。