Masaki Koike's blog

編集などを生業としています。モヤモヤの吐き出し、触れたものやつくったものの所感の備忘録など。

『自炊者になるための26週』実践編:1 においの際立ち

2024年の目標の一つに、「自炊者」になる、というものがある。言い換えれば、昨年末に刊行された三浦哲哉『自炊者になるための26週』を実践する、というものだ。

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僕はもとから自炊はどちらかといえばするほうで、仕事が立て込んでいるときであっても、いやむしろそういうときこそ、無心で料理をすることでストレスを発散させるタイプだ。特に、仕事を切り上げた後に、音楽やPodcastを聴きながら、ビールあるいはワイン片手に料理する時間は、これ以上ない至福の時間のひとつでもある。

しかし、同時に課題意識……というと大げさだけれど、モヤモヤも感じていた。それは、もっと色々つくれたら、あるいはつくる意欲があれば、もっと楽しくなるのに、というもの。というのも、僕は自炊こそするが、基本的に面倒なことはせず、魚をさばいたり、揚げ物をしたりは一切しない。一汁一菜以上も基本的にはつくらない。スキルでいえば、ここ5年くらいで一切進歩していないと思う。面倒なものが食べたくなったら、外で食べればいい、くらいのスタンスだった。しかし、さすがにここ最近は自分のつくるものに飽きも出てきていた。味噌汁や鍋、あるいは適当な炒めものをつくるように、もっと色々なものをつくれたら楽しいだろうな、という感覚はずっとあった。それからもっと大げさなことを言えば、僕は日常における小さくて凡庸な創造行為がもたらすケア的効果に強く関心を抱いていて、その大きな例として自炊があると思っていたので、そうした探究を実践してみる意味でも、ここらへんで改めて自炊に向き合ってみたいと思っていたのだ。

そんなとき、『自炊者になるための26週』に出会った。本書は、自炊をいかに愉しむか、堪能するかという視点に則って書かれており、具体的なレシピや、いわば「自炊批評」的なメタ分析も含めつつ、毎週特定の調理法や材料にフォーカスして26週分書かれている。まさに、いまの自分にうってつけの本だ……ということで、今年の前半は26週かけてこの本を実践して血肉化し、帯文の表現を借りれば「日々の小さな創造行為」を目一杯堪能できるようになろう、という魂胆だ。

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(行きつけの近所のブックカフェでやっていた書き初め企画でも、しっかり書き残しておいた)

 

……というわけで、第1週を終えたのでそのレポートを。第1週のタイトルは「においの際立ち」。三浦は「おいしさに接近する最大の鍵」を「におい」に求め、その最初の実践例として、パンを挙げる。つまり、この第1週のテーマは、パンを焼くことを通じて、「においの際立ち」を味わえるようになる、というものだといえる。

 

トースト、バターロール、フランスパン、さらにはサワードゥの直火焼きまで具体例を挙げるが、三浦が最も重視するのは、「におい」を愉しむことそして狙いをしっかり持ち、方法のちがいを楽しむことだ。(このあたり、ちゃんと本文を引用しながら紹介しようと思ったが、面倒で続かなくなる未来しか見えないので、やめた。調理や味わいのプロセスの描写も素晴らしいので、ぜひ本書を読んでもらえると)

 

さて、第一週がパンだと知ったときは、いきなり頭を抱えた。なぜなら、うちにはパンを焼く環境、つまりトースターがなかったからだ。そもそも僕は実家にいた頃から筋金入りのご飯派で、朝ごはんは常に白米、パンはごくたまに外で朝食をとることになったときのみ、というスタイル。というか、嫌いではないが、そもそもそんなに好きじゃなかった。

でも、いきなりこんなことで挫折してはいられない……ということで、思い切ってアラジンのトースターを買った。トースターにしてはやや高めだったが、結果的には大正解。かわいいグリーンが置いているだけでテンション上がるのはもちろん、やはりパフォーマンスが素晴らしい。というかトースターが素晴らしい。こんなに簡単にパンが焼けるなんて。

 

この1週間は、無理をしてパン中心の朝ごはんに。気分を上げようと、コーンスープやオニオンスープ(粉末だが)、プチトマトや目玉焼き、あるいはスクランブルエッグもつけてしまう。ふだんは朝は面倒で、冷凍ごはんをチンして、納豆か卵をかける、そして昨晩の残りまたはレトルトの味噌汁くらいなのだが、パン食にあたって、ついつい毎朝卵料理をつくってしまう。パンは超熟トースト、近所の人気パン屋の特製トースト、マーガリン入りバターロール、プレーンバターロール、さらにはバター以外にもはちみつやピーナツクリームなどいろいろ試したが、結局はシンプルにバタートーストが一番好きだなと再確認。あと当たり前だが、トーストとバターロールで焼き加減に違いが求められることも体感できた。

 

 

というか、焼きたてのパン、美味しい。三浦が恍惚としていたのもよくわかる。焼きたてのパンのにおいだけでこんなに幸せになれることを、30にして初めて知った。

 

正直、三浦の言うように狙いを持って試行錯誤まではあまりできた気がしないし、バゲットもサワードゥも試せていない。しかし、30年朝は米食派できた僕が、ストレスなくパンの朝食を楽しめるようになった。それだけで大きな進歩だし、これからはちょくちょくパン朝食を取り入れようと思った。シンプルに、できることが拡張され、楽しみの選択肢が広がった感覚。これを26週できれば、かなりの自炊快楽主義者になれるのではないかと思う。