Masaki Koike's blog

編集などを生業としています。モヤモヤの吐き出し、触れたものやつくったものの所感の備忘録など。

2021年の備忘録と、2022年に向けて

12月はちょくちょく人に会ったりしながら、淡々と仕事をしていたら、気づけば大晦日に。まだまだ仕事は山積み、かつ31日だけれど一緒に仕事している人たちから熱い連絡が続々と届き、良い意味でまったく納める気持ちにならない。とはいえ、実家や親族との恒例行事があるのと、ちょっと振り返りや小休止をしたい気持ちもあり、ここから2日くらいまでは、少し稼働を抑える予定です。というわけで、まずは年末らしく、僕の2021年を駆け足で、大雑把に振り返っていこうかなと。一人で飲みながら配信するようなイメージで、脈絡ない感じでいきます(実際、軽く飲みながら書いているわけですが、そういうことで多少の雑さは多目に見てください)。

 

ちなみに、去年は大晦日にこんなブログを書いていました。会社を畳んでから、まだ一年しか経ってないのか。2021年への種まき、回収できたりできてなかったりだなぁ。

masakik512.hatenablog.com

 

 

手始めに、消費者としての2021年から。なんだかんだ仕事が忙しくて、そこまでたくさんのものに触れられたわけではなかったんですが、それでもそれなりにいいものに出会えて幸せでした。

 

まずやっぱり、国内ドラマは豊作だったんじゃないかなと思います。(特に大豆田に関しては)賛否両論あるとは思いつつ、やはり『大豆田』と『俺の家の話』、『おかえりモネ』の3つはとても素晴らしかった。こういう作品にリアルタイムで触れられて、素直に幸せだなぁと思います。年明けも、岡田惠和遊川和彦の新作、そして『鎌倉殿の13人』と、楽しみなドラマがたくさん。『カムカムエブリバディ』の続き、そして地味に好きな『ワカコ酒』の新シーズンも楽しみだ。

www.ktv.jp

www.tbs.co.jp

www.nhk.or.jp

 

それから、仕事が立て込んできた秋頃、ようやく手を出した『愛の不時着』を皮切りに、韓ドラにはまりかけています。疲れたときや忙しいときこそ向いていて、頭を空っぽにして観られる、魅力的なキャラクターの群像劇を楽しめるのが心地よい。正直に言って前時代的に感じるような世界観を前提としつつ、現代的なジェンダー観から照らして違和感が出すぎないギリギリの塩梅の政治的正しさが担保されていて、現実逃避のファンタジーとしてとても完成度が高い。グローバルで人気の秘密がなんとなくわかった気がします。いくつか観てると、俳優さんがかぶってくるのも楽しい。まだまだメジャーなやつしか触れてませんが、疲れたときにちょこちょこ観ていきたいです。

www.netflix.com

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映画だと、『すばらしき世界』が素晴らしかった。細部まで丁寧に作り込まれた完成度はもちろん、「社会vsヤクザ」という安易な二項対立に回収しない描き方がよくて、立て続けに西川美和さんの作品は全部遡った。全部よかった、また観返したいなぁ。

wwws.warnerbros.co.jp

それから、つい最近観た、濱口竜介さんの『偶然と想像』が傑作だった。人生に必然もファクトもなく、本質的には偶然と想像でしかない。既存の価値体系に馴染めなかった者たちの劇中"演劇"を通じて、その偶然と想像を肯定していく。『ドライブ・マイ・カー』もよかったけれど、それよりもだいぶ好きでした。朝イチで近所のジャック&ベティで観たのですが、最高の一日の始まり。年明けにまた観たい。

guzen-sozo.incline.life

 

本は仕事柄もあり相変わらずたくさん読んで、ふつうに良かった本にもたくさん出会えたのですが、あえていくつかPickするとなるとても難しい……。新刊/既刊問わず、強いていくつか挙げるなら以下かなぁ。

猪瀬直樹『欲望のメディア』

・イアン・レズリー『子どもは40000回質問する』

・森本あんり『反知性主義

・ウォルター・リップマン『世論』

弘兼憲史島耕作』シリーズ

・井庭崇『クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』

・新庄耕『ニューカルマ』

磯部涼『ルポ川崎』

・村田あやこ『たのしい路上園芸観察』

花森安治花森安治選集』

・東千茅『人類堆肥化計画』

立花隆『宇宙からの帰還』

宇野重規『民主主義のつくり方』

・落合陽一『半歩先を読む思考法』

原武史団地の空間政治学

・ズンク・アーレンス『TAKE NOTES!』

村上春樹『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』

・小島美羽『時が止まった部屋──遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし』

・藤田一照『現代坐禅講義──只管打坐への道』

・山井梨沙『FIELDWORK─野生と共生』

柳宗理『エッセイ』

柳宗悦『美の法門』

・柳田由紀子『宿無し弘文─件スティーブ・ジョブズの禅僧』

・石戸諭『東京ルポルタージュ──疫病とオリンピックの街で』

・野地洋介(編)『やさしくなりたい』vol.2

・セオ商事(編)『ニューQ』ISSUE02 エレガンス号

……と言いつつ、読書メモを見ながらPickしてたら、たくさん挙げてしまいました。自分が関わったもので言えば、PLANETS(編)『モノノメ 創刊号』もとても良い本です。

 

このへんでスムーズに仕事の話に移ると、まず大きかったのは、PLANETSでインタビュー連載を持たせていただけるようになったこと。毎回、準備もインタビューも原稿をまとめるのも本当に大変なのですが、その分得られるものもとても大きい感覚。もちろん、僕が世に強く紹介したい人たちの考えや経歴を深く綴れるのもとてもやり甲斐がありますし、長めの対話を経ることで、結果的にインタビュイーの方々ともその後につながる良い関係性を築けていて冥利に尽きる。機会をくださったPLANETSとインタビュイーの方々には本当に感謝です。来年も引き続き、聞いて綴っていきます。

slowinternet.jp

 

そもそも連載に限らず、PLANETSには今年一年、とてもお世話になりました。編集部メンバーとしてがっつり関わらせていただき、寄稿記事の企画・編集をたくさんさせてもらいました。新創刊の雑誌『モノノメ』にも、2号からは編集部メンバーとして関わっており、とても良い機会をいただけています。

slowinternet.jp

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そうそう、今年は、民藝について色々と考えた気がします。ちょうど『民藝の100年』展という素晴らしい展覧会もやっていますが、民藝に関する読み物をいろいろと読んだり、ちょこちょこ仕事でも関わったりしていました。直接民藝、というよりは、その精神性をどう現代に持ち帰るか、という仕事が多かった気がします。

www.momat.go.jp

絶賛制作中の『モノノメ』2号のこの企画も、実は民藝の精神性についての企画です。

足掛け3年、ようやく刊行に漕ぎ着けたこの本(編集協力しました)でも、実は民藝が一つの重要なキーワードとして出てきています。

www.amazon.co.jp

 

 

民藝と微妙に関係するところでいうと、今年はデザイン領域の仕事もたくさんしました。デザインの可能性を探究するデザインビジネスマガジン『designing』というメディアに編集部メンバーとして参加。

note.designing.jp

デジタル領域を中心に、たくさんのデザイナーさんたちを取材しました。グッドデザイン賞の取材で愛知まで足を運んだのはいい思い出です。編集部メンバーとは、だんだん勝手ながら戦友感が出てきています。来年も頑張りたいです。

note.designing.jp

note.designing.jp

note.designing.jp

note.designing.jp

編集部の人と一緒にいったこの展示にも、とても感銘を受けました。

www.taromuseum.jp

 

それから、HRベンチャー・カオナビのオウンドメディアのコンセプト策定から立ち上げ、運用までご一緒したのも楽しかったです。声をかけていただいた、他の媒体でもライターとしてたくさん力を貸していただいている鷲尾さんには感謝です。こっちもより一層、良い意味でカオスなメディアになっていくよう来年もがんばります。

unique.kaonavi.jp

 

もちろんほかにも、たくさんの良いお仕事の機会に恵まれました。ぜんぶ書くとヤバいことになりそうなので割愛しますが、これからも大切に育てていきたい縁ばかり。今年は、仕事相手の数が増えたというよりは、もともと仕事していた人たちとより深く関われるようになった感覚があって嬉しいです。

 

心残りとしては、いくつか走り始めていた同人的制作活動があまり結実しなかったことです。こちらは今自分として強い欲望を持っているところでもあるので、来年はがんばります。とりあえず一つポッドキャストを立ち上げるのが決まっているのでそれを目一杯楽しむのと、自分主導で好き放題やる制作活動もしたいなと思っています。これまでいろいろと散発的に興味関心をつまみ食い的に深めていく中で、それらを貫く軸みたいなのもおぼろげながら見えてきつつあるので、そういうのを楽しく、より深めていく場がつくりたいなと。

 

そういえば、2021年は友人との勉強会、ちょくちょく新しい人に会う機会も増えるなど、直接仕事には関係ない人間関係も深めたり広げたりする機会が多かった印象があります。コロナ挟んでるからより一層、というのはあるのだろうけど。

 

あ、音楽の話もしようかな。後述するように、今年は基本的にカネコアヤノの年だったのですが、それでもいくつかいい音楽体験を得られました。Apple Musicを見てても、前半のことがあんま思い出せなかったので、最近の話中心の振り返りにはなっちゃいますが。

友達が「絶対好きなはず」と勧めてくれたので聴いてみたら、とても好きな感じでした。

kiss the gamblerの「黙想」をApple Musicで

 

あと、ヨギーとかオザケンとか、最近のアルバムや曲が個人的にいまいちピンと来てなかった人たちの新曲や新アルバムがめちゃよくて嬉しかったです。

Yogee New Wavesの「WINDORGAN」をApple Musicで

小沢健二の「飛行する君と僕のために/運命、というかUFOに(ドゥイ、ドゥイ) - Single」をApple Musicで

 

桑田の新アルバムも、ほんと王道ですごいよかったなぁ。

桑田佳祐の「ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し - EP」をApple Musicで

 

それと、ライブではこの前に行った、思い出野郎Aチームの「ソウルピクニック 2021」がピースフルでよかったです。

kakubarhythm.com

……まぁでも、音楽に関しては、後述するように今年はほとんどカネコアヤノに持っていかれてしまったので、「強いて言えば」レベルです。

 

そろそろ締めていきます。

来年は、まずライターとしては、ノンフィクション小説的表現の探求をがんばりたいと思っています。これまであまり読んでこなかったのですが、2021年はノンフィクション小説をけっこう読んでいて、その表現の豊穣さに今さら感銘を受けました。僕もいちおうノンフィクションの読み物を作る書き手の一人として、そうした表現スタイルをいかにして現代で継承できるか、トライしていきたいと思います。(そういうルポルタージュ系のお仕事ありましたら、ぜひご相談いただけると嬉しいです)

 

編集者としては、まだまだ企画力やアドバイス力が足りないなということを日々痛感しているので、意識的にインプットの幅を増やしながら、独自性の高い切り口の企画を立て、形にしていくチャレンジを重ねていきたいです。そのため、だけじゃないですが、来年は仕事関係なく積極的に首都圏外に足を運びたいなー、と思っています。

 

あとは、さっき書いたように、同人的制作活動は何かしら形にします。

 

そんな感じで、2022年も年明けから楽しくやっていけるといいなと思っています。

それでは、よいお年をお過ごしくださいませ。

 

 

 

 

 

 

最後に一つだけ。

もともと、これ以降の内容を一番最初に思いついて冒頭に書いたのですが、あまりに気持ち悪くて読み進めるのが困難な人が増えそうな気がしたので、最後に移しました。物好きな人だけどうぞ。

僕が2021年という年を振り返るとき、一番に思い浮かぶ固有名詞は「カネコアヤノ」です。

最近はもう飛ぶ鳥を落とす勢いで、この前友達と「そろそろユリイカで特集されそう」なんて話もしてました。「なんで今さら?」感もあると思うのですが、2021年の春頃、雷に打たれたように急速に心を捉えられてしまいました。打たれはじめの時期、こんなブログも書いていましたね。

masakik512.hatenablog.com

僕はふだんは音楽はそこまで熱心に聴くわけではないのですが、だいたい5年に1回くらいの周期で、雷に打たれたように特定のアーティストに入れ込んでしまうことがあります。そうなるともう、とにかくその人の曲を聴きまくるのはもちろん、四六時中その人のことを調べたり考えたりしてしまう発作に襲われる。

また、言葉を扱う仕事をしていながらこんなことを言うのは憚られるのですが、僕はふだんかなり身体的に音楽を聴いていて、正直あんまり歌詞とか聴いていません。基本的にはバンドサウンドを聴いていて、ブラックミュージックやロックのテイストとポップスの情感が混じったようなタイプの曲が好きで、基本的には歌も演奏の一部くらいに捉えちゃっています。でも、その「5年に一度」が訪れたときだけは、歌詞も狂ったように味わう傾向があるように思えます。

……という気持ち悪い自分語りを重ねてしまったのですが、まぁとにかく、久しぶりに取りさらわれてしまったアーティストがカネコアヤノだったのです。音源やライブ映像を手に入る限りは死ぬほど聴いたのはもちろん、ライブにも可能な限り足を運び、首都圏でやっていたものはたぶん全部行きました。

なぜそんなに惹かれているのか、言語化はなかなか難しいのですが、できるだけ頑張って私見を述べます。

まずとにかく、典型的なライブアーティストで、ライブパフォーマンスがほんとうに素晴らしい。めちゃくちゃデカくて存在感があり、攻撃的な歌声。本当に気持ちよさそうな表情でかき鳴らすギター。あんまり良い語彙が出てこないのですが、マジでかっこいい。うまいでもなく、かわいいでもなく、かっこいい。MCはほとんどせず、淡々と演奏をこなしていき、でもライブ中一回だけするMCシーンではゆるくお茶目に、来場者の健康を気遣ってくれる。ものすごいエキサイティングでありながら、とてもじんわりと心温まる、奇跡的な時空間が成立している。何度足を運んでも、まったく飽きる気配がないどころか、毎回新たな感銘を受ける。

そして、エネルギッシュでパンキッシュに歌い上げるにもかかわらず、その内容は一見まったく攻撃的ではなく、むしろ「日常の些細なものごとを大切にしよう」的な世界観であるというギャップ。「ていねいな暮らし」的な権威性とは無縁で、ある意味で凡庸な、インスタントコーヒーや洗濯物に見出す詩情。それをとても攻撃的に歌っているさまからは、生活を自分なりに組み立てて味わうこと、それこそが最強のカウンターなのだと伝わってくる。先ほども少し触れたように、今年は花森安治の文章を集中的に読んだりもしたのですが、「暮らしという抵抗」を大切にしている点で、共通した精神性を感じました。

凡庸な暮らしを愛おしむということは、日常と祝祭という二項対立を解体することも意味している。しんどい日常と、そのストレスを発散するための祝祭という対立ではなく、日常の中にこそ祝祭を見出し、祝祭を日常に組み込んでいくこと。2021年11月29日、初の武道館ライブでは、最後のアンコール曲として演奏した「アーケード」という曲が始まった瞬間、会場の照明が一気にパッとついて、それまで座っていたフロアの全員が自然と立ち上がった。そのとき、まさにライブという祝祭のピークポイントが、明るい照明という日常の中で訪れて、日常と祝祭の境が溶けたような感覚になったのをよく覚えている。

……まぁとにかく、来年も彼女とそのバンドの生み出す素晴らしい創造物を、思う存分味わいたいなと思っています。

 

気づけば7,000字近くになってしまっていた。今度こそ本当に、良いお年を。